お金に関する問題 -離婚相談ガイド-

夫婦が離婚する場合には、お金に関する問題も解決しておく必要があります。
離婚前に決めておくべき問題としては、婚姻費用があります。
また、離婚時に決めておくべき問題としては、主に財産分与、慰謝料、離婚時年金分割の問題があります。
以下では、それぞれについてご説明します。
婚姻費用

■はじめに

婚姻費用とは、夫婦が婚姻生活を維持するうえで必要となる費用を言います。
夫婦は、相互に扶助義務を負うため、婚姻費用についてはこれを分担することになります。この扶助義務は、法律婚状態にある限り、当事者双方が負うものですので、別居を開始し、夫婦関係がもはや破綻している状況にあっても、原則として、離婚が成立するかまたは別居が解消されるまで婚姻費用の分担義務は発生し得ます。
婚姻費用の分担は、その資産、収入、その他一切の事情を考慮してその程度や内容を決めることになります。

■婚姻費用分担調停・審判

夫婦間で婚姻費用の分担額に関する話し合いがまとまらない場合には、権利者である一方配偶者は、家庭裁判所に対し、義務者たる他方配偶者に対する婚姻費用分担請求のための調停を申し立てることができます。
調停では、当事者双方が、資産、収入、未成年の子がいる場合にはその子の監護養育に掛かる費用等の資料を提出し、双方の収入を基礎として、具体的な婚姻費用の分担額・分担方法について話し合われます。
調停で合意できれば、調停調書に合意内容がまとめられます。これに対し、調停が不成立となった場合には、ほとんどの場合には自動的に審判に移行し、家事審判官たる裁判官が一切の事情を考慮して婚姻費用の分担額について審判します。

■婚姻費用分担の履行確保

1履行勧告
婚姻費用分担調停が成立している場合には、権利者たる一方配偶者は、家庭裁判所に対し、義務者たる他方配偶者に対して調停内容に基づく婚姻費用の分担を履行するように勧告することを申し出ることができます。この申出は、口頭か書面かを問わず、電話による申出も可能ですし、費用も掛かりません。しかし、義務者に対する強制力はありません。

2.強制執行
権利者たる一方配偶者は、義務者たる他方配偶者が婚姻費用の分担を履行しない場合に、地方裁判所に対し、婚姻費用分担の履行確保を目的として強制執行を申し立てることができます。多くの場合は、義務者の預貯金や給与債権・退職金債権を差し押さえることになります。
婚姻費用を月払いにしている場合等には、当該婚姻費用は扶養義務等に係る定期金債権を請求する場合の特例が適用され、将来分についても差し押さえることが可能です。また、その婚姻費用分担債権を債務名義として、給与債権・退職金債権を差し押さえる場合には、その給付から所得税・住民税等を控除した額の2分の1まで差し押さえることが可能です。

■有責配偶者からの請求の制限

婚姻費用の分担請求は、夫婦が相互に負う同居協力扶助義務や貞操義務を前提に認められる権利です。そのため、請求される方が有責(同居協力扶助義務違反や貞操義務違反がある場合)であるときは、婚姻費用の分担請求が制限されることもあります。
もっとも、婚姻費用の中には、子どもたちの監護費用を含まれるため、有責配偶者からの請求であっても、子どもたちの監護費用(養育費)相当額については認められる可能性があります。
財産分与

■財産分与とは

財産分与とは、夫婦が婚姻中に形成した財産を清算する権利及び手続を言います。
はじめに、財産分与は夫婦が婚姻中に形成した財産を対象としますので、夫婦が各々婚姻前に有していた財産や婚姻中であっても相続や贈与により取得した財産は『特有財産』として、財産分与の対象から除外されます。
また、財産分与は、分与すべき財産があることを前提とします。そのため、夫婦が婚姻中に形成した財産において、プラスの財産よりもマイナスの財産(負債等)の方が大きい場合には、分与すべき財産がそもそもないとして、財産分与は認められないことになります。

■財産分与の種類

『財産分与』には、3つの分類(というよりも考慮要素といったほうが正しいかもしれません。)があります。①清算的財産分与、②扶養的財産分与、そして③慰謝料的財産分与です。

1.清算的財産分与
清算的財産分与とは、夫婦が婚姻中に協力して形成した財産を、双方の寄与度に応じて清算することを目的とする財産分与です。
夫婦の寄与度については、双方が協力義務を果たしたとの推定に基づき、相互に50:50の割合であることが原則となります。そのため、異なる清算割合を主張するためには、自らの資産形成における寄与度が高いことを主張しなければなりません。

2.扶養的財産分与
扶養的財産分与とは、夫婦双方に大きな経済的格差があり、離婚によって一方当事者が相当期間生活に支障が生じるとの事情が認められる場合に、財産分与のなかで当該当事者の離婚後の生活扶助を考慮することを目的とする財産分与です。
本来であれば、清算的財産分与又は離婚慰謝料によって考慮される事情です。あるいは、一方当事者が婚姻により家庭に入るため定職を辞めたといった事情を考慮するとしても、これも清算的財産分与における寄与度の割合において考慮すれば足りるとも言えます。そのため、清算的財産分与における清算割合を決めるうえでの一考慮要素と位置づけることも可能でしょう。

3.慰謝料的財産分与
慰謝料的財産分与とは、離婚に伴う慰謝料を考慮することを目的とする財産分与です。ここで考慮される事由は、あくまで離婚それ自体に伴う精神的損害部分であり、離婚原因である不貞行為等に伴う精神的損害部分は考慮されません。また、財産分与とは別に、慰謝料を請求した場合には、後者の中で慰謝料の要素は考慮されますので、この場合には、財産分与では清算的要素及び扶養的要素のみが考慮されることになります。
また、過当な財産分与があると認められる場合には、過当部分について贈与税が課せられるおそれがあります。そのためにも、財産分与の問題と慰謝料の問題は切り離して請求することにもメリットがあります。

■財産分与の調停・審判

当事者間の話合いによっては財産分与額について合意に至らない場合には、財産分与を求める者は、家庭裁判所に対し、財産分与の調停を申し立てることができます。
調停の中では、双方の共有財産として何があるか、双方の寄与分の割合はどの程度か、清算方法は単純分割とするのか金銭による財産分与とするのか、金銭による場合には支払方法をどのようにするのかなどの詳細を話し合っていくことになります。
調停で合意に至れば、調停調書にまとめられます。調停が不成立となった場合には、ほとんどの場合には自動的に審判に移行し、家事審判官たる裁判官が一切の事情を考慮して財産分与の割合や分与方法等を決定します。

■財産分与の履行確保

1.履行勧告・履行命令
財産分与調停が成立しているにもかかわらず、義務者が財産分与債務を履行しない場合には、権利者は家庭裁判所に対し、義務者に財産分与債務を履行するよう勧告することを求めることができます。履行勧告は、口頭でも申し立てることができ、費用は掛かりません。 また、権利者は、義務者が履行勧告に従わない場合には、家庭裁判所に対し、履行命令を申し立てることができる。履行命令が出された場合であって、義務者がそれでも財産分与債務を履行しないときは、10万円以下の過料が課されることがあるため、一定の強制力が働きます。申立手数料として500円が必要となります。

2.強制執行
財産分与債権は、通常の金銭債権と同様の強制執行手続を利用することになります。 もっとも、不動産の所有権(共有持分権)移転登記手続をすることを内容とする財産分与であれば、その対象となる不動産及び所有権移転登記手続義務の内容が調停調書において具体的に明記されていれば、権利者が調停調書正本を添えて単独で所有権移転登記手続を行なうことができます。
慰謝料

■慰謝料とは

離婚における慰謝料とは、夫婦の一方が離婚原因につき有責性(不貞行為、DV等)が認められる場合に、他方配偶者が有責配偶者に対して財産的損害・精神的損害に伴なう金銭賠償を求めることを言います。法的には、不法行為に基づく損害賠償請求の一種ということになります。ここでの損害には、離婚それ自体に伴う損害と離婚原因に伴う損害があります。そのため、夫婦の一方が離婚せずに慰謝料を求める場合には、離婚と同時に慰謝料を求める場合とは認められる賠償額が異なりうることをご理解ください(つまり、一般に言われている離婚時慰謝料の相場がそのまま参考にできるわけではありません)。 慰謝料請求権の時効期間は、損害及び加害者を知った時から3年間ですのでご注意ください。

■離婚請求の相手方

離婚原因がたとえば不貞行為の場合には、有責配偶者のみならず、不貞行為の相手方(第三者)に対しても慰謝料を請求することができます。この場合の有責配偶者と相手方の慰謝料債務は、(不真正)連帯債務と呼ばれる関係に立ちます。 たとえば、慰謝料額が200万円で、有責配偶者と相手方の責任割合が60:40だとしても、有責配偶者と相手方はそれぞれ他方配偶者に対して200万円の債務を負うのであり、有責配偶者120万円・相手方80万円の債務を負うにとどまるものではありません。 もっとも、総体として200万円が慰謝料額ですので、有責配偶者と相手方のいずれか一方が200万円を支払えば、他方に対してさらに請求することはできません。 

■慰謝料請求の方法

慰謝料請求は、相手方が任意に履行しない場合には、一般の金銭債権と同様、訴訟によって請求することが原則となります。
もっとも、離婚それ自体の手続と慰謝料請求の手続を別々に審理するのは煩雑であることから、離婚訴訟の中で慰謝料請求事件を関連事件として扱うことが可能です。不貞行為の相手方に対する慰謝料請求事件も離婚訴訟の関連事件として扱うことが可能です。
慰謝料
離婚時年金分割とは、当事者の一方からの請求により、夫婦の婚姻期間中の厚生年金記録中の標準報酬月額・標準賞与額を当事者間で分割する制度です。離婚時年金分割は、離婚すれば当然に分割されるものではなく、必ず年金分割請求が必要となります。また、請求できる期限は、原則として離婚等をした日の翌日から起算して2年以内です。
婚姻期間中に3号被保険者期間がある場合には、請求により、起標準報酬月額・標準賞与額は当然2分の1ずつ当事者間で分割されます。それ以外の被保険者期間については、当事者間で按分割合について合意をまとめる必要があります。

按分割合について当事者間で合意に至らない場合には、分割を請求する者は、家庭裁判所に対し、離婚時年金分割の調停を申し立てることができます。調停では、年金分割のための情報通知書の提出を求められることが多いので、あらかじめ年金事務所に対し、年金分割のための情報通知書の交付を請求しておく必要があります。